雪の緊張感が作品全体を覆っている「誠実な詐欺師」

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携帯を家に忘れて、電車の中で読むつもりで買った本。
ムーミンの作家トーベ・ヤンソンが書いた「誠実な詐欺師」冨原眞弓訳。

背幅が1cmにもみたない薄い本なのに777円。やや高い印象。

聡明だけど無愛想なため人から嫌われてしまう黄色い目をしたカトリと
純朴なために頭が悪いと思われているカトリの弟マッツ、純真でお金持ちなため
街の人や出版社から騙されているイラストレーターのアンナの3人の物語。

弟 マッツにボートを買うために、カトリはアンナの家に乗り込み、不利な契約をしているアンナの書類を全部見直し、印税のパーセントをあげたり、いい条件で契 約できるよう策略し、少しずつお金を貯めていく。しかし、その公平さや賢さかから街の人やかつての主人に嫌われ、子供たちに「魔女」と呼ばれ、アンナにも 煙たかがれるカトリ。

そんなカトリが今の時代に生まれていたら、裁判官か弁護士 か、有能なファンドマネージャーにでもなっていただろう。聡明で恐ろしく公平で、間違ったことを言わないように慎重に言葉を選び、目的を遂行するまではど んな失敗も起こさないよう、細心の注意を払う。たった数名の登場人物しかいないのだが人間の基本的なパターンが凝縮されているように思える。

結局、世の中には感情的なアンナタイプか論理的で慎重なカトリタイプが純朴で素直なマッツか、小さい事ばかり気にして他人のうわさ話をしている街の住民タイプに分けられるか、またそのすべてのタイプのバランスでなりたっているように思える。

ドラマティックな展開が有る訳ではないけれど、黄色い目をした慎重で聡明なカトリのように、最初から最後まで雪の緊張感が全体を貫かれている作品。

個人的には姉、弟のことを考えた。
カトリはまるで姉のよう。私はカトリのように弟のことを思いやってあげれたのだろうか?